大判例

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大阪高等裁判所 昭和59年(ネ)980号 判決 1985年9月30日

控訴人(被告)

宝タクシー株式会社

ほか一名

被控訴人(原告)

芝先良子

ほか一名

主文

一  控訴人らの被控訴人芝先良子に対する控訴に基づき、原判決中同被控訴人関係部分を次のとおり変更する。

1  控訴人らは各自、被控訴人芝先良子に対し、金八七万五〇八九円及び内金七七万五〇八九円に対する昭和五五年三月二二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  被控訴人芝先良子のその余の請求を棄却する。

二  被控訴人芝先幹夫の附帯控訴に基づき、原判決中同被控訴人関係部分を次のとおり変更する。

1  控訴人らは各自、被控訴人芝先幹夫に対し金八七二万一四三六円及び内金七九二万一四三六円に対する昭和五五年三月二二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  被控訴人芝先幹夫のその余の請求を棄却する。

三  控訴人らの被控訴人芝先幹夫に対する控訴を棄却する。

四  被控訴人芝先良子の附帯控訴を棄却する。

五  訴訟費用は、第一、二審を通じてこれを三分し、その一を控訴人らの、その余を被控訴人らの各負担とする。

六  この判決の第一項1及び第二項1は仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求める裁判

一  控訴人ら

(控訴につき)

1 原判決中控訴人ら敗訴部分を取消す。

2 被控訴人らの請求を棄却する。

3 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

(附帯控訴につき)

本件附帯控訴を棄却する。

二  被控訴人ら

(控訴につき)

1 本件控訴を棄却する。

2 控訴費用は控訴人らの負担とする。

(附帯控訴につき)

1 原判決を次のとおり変更する。

2 控訴人らは各自、被控訴人芝先良子に対し、金三三三万六九八九円およびうち金三〇三万六九八九円に対する昭和五五年三月二二日から支払済みまで年五分の割合による金員を、被控訴人芝先幹夫に対し、金二八六一万六八七一円及びうち金二六〇一万六八七一円に対する昭和五五年三月二二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二当事者の主張及び証拠関係

次のとおり付加するほかは、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

一  被控訴人らの主張

被控訴人らの弁護士費用相当損害は、当審の弁護士費用分も加算すると、被控訴人芝先良子につき金六〇万円、被控訴人芝先幹夫につき金五二〇万円をそれぞれ下ることはない。

二  当審での証拠関係

当審記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  本件事故の発生とその態様並びに控訴人らの責任原因についての当裁判所の認定、判断は、原判決が理由第一、第二項(八枚目表五行目から同裏七行目まで)に説示するところと同一であるから、これを引用する。

二  そこで、被控訴人らの被つた損害について検討する。

1  被控訴人らの受傷状況、治療経過、後遺症の内容・程度・症状固定時期並びに治療費及び通院交通費についての当裁判所の認定、判断は、次のとおり補正するほかは、原判決が理由第三項1、2(八枚目裏九行目から九枚目裏四行目まで)に説示するところと同一であるから、これを引用する。

原判決八枚目裏一〇行目の「第二三」を「第三三」と、同一二行目の「1(一)(二)」を「三1(一)、(二)」とそれぞれ改め、同九枚目表末行の「第四号証、」の次に「弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第三一号証、」を加える。

2  被控訴人芝先良子の逸失利益

(一)  休業損害 金一二三万九一六二円

成立に争いのない乙第四号証の二、被控訴人芝先良子、同芝先幹夫(原審及び当審)各本人尋問の結果によれば、被控訴人良子は、本件事故当時四六歳で、夫の被控訴人幹夫が経営する石油販売業の記帳、電話番等の事務を手助けする(これについては、被控訴人幹夫は、昭和五五年一月以降被控訴人良子を自己の石油販売業の青色専従者とし、月額七万円の給与を支給する旨所轄税務署長に届け出ている。)とともに、そのかたわら、主婦として家事労働に従事していたことが認められ、したがつて、同被控訴人は、少くとも年額一八八万七〇〇〇円の所得(昭和五五年度賃金センサス第一巻第一表企業規模計・産業計・学歴計・四五歳から四九歳までの女子の平均給与額)に相当する程度の稼働をしていたものと認めるのが相当である。

しかるところ、右労務内容、前記傷害の部位・程度、治療期間・実通院日数並びに前掲甲第二四号証及び被控訴人良子本人尋問の結果に照らすと、同被控訴人は、本件事故による受傷のため、昭和五五年三月二二日から昭和五六年七月三一日までの間、通じて受傷のない場合の五〇%に留まる稼働しかなしえなかつたものと認めるのが相当である。

そこで、前記年間所得額と右稼働率の低下を基礎に、同被控訴人の昭和五五年三月二二日から昭和五六年七月三一日までの間の休業損害を、月別のホフマン方式(一六か月の単利年金現価率一五・四五八〇、同月数の単利現価率〇・九三七五)により年五分の割合による中間利息を控除して、右昭和五五年三月二二日(本件事故日であり、被控訴人らが遅延損害金請求の起算日としている日)当時の一時払額として算出すると、次のとおり、一二三万九一六二円となる。

1,887,000×1/12×(1-0.5)×15,4580=1,215,385

1,887,000×1/12×10/31×(1-0.5)×0.9375=23,777

1,215,385+23,777=1,239,162

(二) 後遺症による逸失利益金一六万八七八二円

前記認定の被控訴人良子の後遺症の内容・程度、労務の内容・程度、年齢等の諸事情並びに前掲甲第二四号証及び被控訴人良子本人尋問の結果に照らすと、被控訴人良子は、前記後遺症のため、昭和五六年八月一日から少くとも二年間を通じて、右後遺症のない場合の九五%に留る稼働しかなしえなかつたものと認めるのが相当であり、証人西口芳男の証言ではこれを覆すに足りない。

そこで、前記年間所得相当額と右稼動率の低下を基礎に、同被控訴人の後遺症による逸失利益を、月別のホフマン方式(四〇か月の単利年金現価率三六・九二四八、一六か月の単利年金現価率一五・四五八〇)により、年五分の割合による中間利息を控除して、昭和五五年三月二二日当時の一時払額として算出すると、次のとおり一六万八七八二円となる。

1,887,000×1/12×(1-0.95)×(36.9248-15.4580)=168,782

3  被控訴人芝先幹夫の逸失利益

(一)  前記認定の被控訴人幹夫の傷害の部位・程度、治療期間、実通院日数、後遺症の内容・程度に、前掲甲第三三号証の一、二、第三四号証の一ないし三、乙第四号証の二、成立に争いのない乙第四号証の一、被控訴人幹夫本人尋問の結果(原審)により真正に成立したものと認められる甲第三二号証、第三五ないし第三八号証、第三九号証の一ないし三三、第四一号証、被控訴人幹夫本人尋問の結果(当審)により真正に成立したものと認められる甲第四五号証、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第四〇号証、被控訴人幹夫(原審及び当審)、同良子各本人尋問の結果を総合すれば、次の各事実が認められ、証人西口の証言ではこれを左右することはできず、他にこの認定を覆すに足る証拠はない。

(1) 被控訴人幹夫は、本件事故当時五〇歳で、大阪市天王寺区勝山通に事務所を置いて、「芝先石油店」の商号で石油販売業を営んでいた。

(2) その営業形態は、被控訴人幹夫が自ら、飛島建設株式会社ほか四、五社の長年来の得意先建設会社の現場などを回つて石油(主として軽油、灯油、一部潤滑油)の注文を受け、これを大協石油株式会社から仕入れて納入するというものであつた。

(3) その石油の販売形態には、大協石油を代行して石油を販売し仲介手数料を得る方式(代行方式)と、大協石油から石油を仕入れて納入先へ販売する方式(販売方式)とがあつた。また、納入方法としては、被控訴人幹夫(ないしその従業員)が自ら現場へ搬入する場合と、被控訴人幹夫が現場にタンクを設置し大協石油が直接搬入する場合があつた。

(4) 本件事故以前、芝先石油店の営業規模成績は、昭和五一年が最も良かつたが、昭和五二年ないし五三年には多額の欠損を生じ、昭和五四年は回復した。従業員としては、被控訴人良子が手助けしたほか、昭和五一年には常時五、六人を雇用していたが、昭和五二年には一人、昭和五三年、四年は臨時にアルバイトを雇用する程度であつた。

(5) 本件事故の前年の昭和五四年における芝先石油店の売上数量、金額は別表ⅰのとおりであり、所得税確定申告書記載の損益計算の概要は別表ⅱのとおりである。

右損益計算では、被控訴人良子の労務への対価相当分は何ら控除されていないので、これを修正すると、所得金額は別表ⅲのとおりとなる。

また被控訴人幹夫は、「みなし法人課税」を選択しており、右年度の所得税確定申告に際しては、同被控訴人自らの「専業主報酬」として二四〇万円(月額二〇万円)を計上して申告し、これを前記所得金額から控除し、更に繰越みなし法人損失額八五二万七二九八円を控除して、結局、同年の課税みなし法人所得額は零である旨申告している。

(6) 被控訴人幹夫は、本件受傷により、通院日は勿論それ以外の日でも、自ら得意先を回ることが困難となるなど、相当不十分な稼働を余儀なくされた。そこで、電話で注文を聞いたりするほか、昭和五五年四月以降、訴外井足清を月額二〇万円の給与で補助者として雇用し、症状が良好な時には同訴外人に自動車を運転させて得意先を回るなどして、得意先の維持、受注の確保に努力した。しかし、受注は減少し、得意先を失う例もあつた。

(7) なお、被控訴人幹夫は、昭和五四年以降、大協石油に対し販売方式による取引のための保証金を納めるようになつていたが、単位数量あたりの利益は販売方式が勝ると考え、本件事故前後の頃から、販売方式の比重を高める方針をとつた。

(8) 芝先石油店の昭和五五年から五七年までの売上数量・金額及び所得税確定申告書記載の損益計算、所得金額の概要は、別表ⅰ、ⅱのとおりである。

しかし、右損益計算では、前記井足清に対する給与支払が意図的に除外されており、また、被控訴人良子の受傷後の寄与、稼働状況は前記2(一)のとおりであるのに受傷のない場合の専従者給与がそのまま計上されている。そこで、右の点を修正すると、右各年の所得金額は別表ⅲのとおりとなる。

(9) 右(8)から明らかなとおり、石油の販売(取扱)数量は、昭和五四年と比較して、昭和五五年は約五九%、昭和五六年は約五五%、昭和五七年は約五三%それぞれ減少している。しかし、各年の全体取引量の中で販売方式分の占める比率は、昭和五四年より増加している。また、別表ⅱ記載の粗利益(売上金額から売上原価を差引いた金額)は、数量の減少ほどには低下しておらず、昭和五四年に比較して、それぞれ、約五七〇万円(約三二%)、約四七五万円(約二六%)、約四一六万円(二三%)の各低下に留つている。

右のように、売上数量や粗利益が減少しているのに対し、経費は、別表ⅱ記載上は、昭和五四年と比較して、昭和五五年が約一六六万円(約二四%)、同五六年が約一三八万円(約二〇%)、同五七年が約一七〇万円(約二四%)増加しており、これに別表ⅱに計上されていない前記井足への昭和五五年四月からの給与分を加算すると、実質的にはそれぞれ、約三四六万円、約三七八万円、約四一〇万円増加していることになる。なお、昭和五五、五六年については、右給与以外の経費の増加は、大部分が接待交際費の増加分である。

そして、右に述べた粗利益の低下と経費の増大が相俟つて、昭和五五ないし五七年の所得税申告所得額ないしその修正額は、別表ⅱ、ⅲから明らかなとおり、昭和五四年に比べて大幅に(六〇〇ないし八〇〇万円以上)減少している。

(二)  そこでまず、逸失利益算定の前提となる被控訴人幹夫の得べかりし所得について検討する。

右(一)認定の芝先石油店の業種、営業の規模・形態、従前の実績等に鑑みると、その収益は安定性に欠け、石油市況、建設業界の好・不況等の外的要因に左右されやすいものであつたといわざるをえない。加えて、本件事故前後の頃、経済情勢、殊に石油業界の情勢が大きく変動したことは当裁判所に顕著である。これらの点に鑑みると、本件事故がなかつた場合に、芝先石油店が、昭和五五年以降も、昭和五四年の所得税確定申告時に開示した所得金額(一〇九二万七二九八円)と同程度の所得を得られる蓋然性が高かつたものとは認めがたく、控え目に見て、その七割に当たる七六四万円の限度の所得を得られるはずであつたものと認めるのが相当である。そして、これから、被控訴人良子の寄与分(前記2(一)の事実により、年間八四万円をもつて相当と認める。)を控除し、結局、休業損害算定の基礎となる被控訴人幹夫の得べかりし所得は、年額六八〇万円と認めるのが相当である。

なお、被控訴人幹夫は、昭和五四年の所得税確定申告において「みなし法人課税」を選択し、「事業主報酬」として年額二四〇万円を計上、申告していることは右(一)認定のとおりであるけれども、右の「みなし法人課税」とは、個人企業主の所得税負担の軽減を図るために、事業所得の一定部分を事業主報酬部分とし、これを給与所得として課税する制度であるところ、被控訴人幹夫本人尋問の結果(原審及び当審)及び弁論の全趣旨によれば、前記の額を事業主報酬として申告したのは、税理士の指導により、節税対策上有利で且つ容認される範囲内の額を計上したにすぎないものと認められるから、右申告に係る事業主報酬額が客観的に見て被控訴人幹夫の労務に起因する所得額であるとか、被控訴人幹夫がそのように自認したとか目することはできず、右事業主報酬額の申告では、前記得べかりし所得額の認定は左右されない。

(三)  休業損害 金九四八万六二一七円

被控訴人幹夫の昭和五五ないし五七年の所得税申告所得額を井足清の給与及び被控訴人良子の寄与の程度に照らして修正した金額は前記(一)(8)認定のとおりであり、これは前記得べかりし所得六八〇万円に比べて、それぞれ五五五万四五七七円、四九九万四〇六二円、四九七万六〇八九円低額であることが計数上明らかである。

しかしながら、<1>前記(一)(8)、(9)認定の売上数量の減少には、前記外的要因や被控訴人幹夫の稼働の低下の外に、その営業形態(販売方式)の転換も影響している可能性が否定しえないこと、<2>前記(一)(9)認定のとおり売上数量、粗利益の減少の中で逆に経費、接待交際費が増大しているところ、それがすべて被控訴人幹夫の受傷その他の合理的事由により営業上余儀ないものであつたと確認するに足る資料はないこと、<3>前記(一)認定の被控訴人幹夫の業務内容に前記1認定の傷害の部位、程度、治療期間、実通院日数、前掲甲第三三号証の一、二、第三四号証の一ないし三に照らすと、本件受傷により余儀なくされる稼働率の低下は、通常の場合、受傷時から症状固定日の昭和五七年八月二六日までの間を平均して、六〇%程度であるものと認めるのが相当であることに鑑みると、右に述べた所得額の開差をそのまますべて、被控訴人幹夫の本件受傷に起因した所得の減少額であると認めるのは早計といわざるを得ず、結局、控え目に、右開差の平均値の約八割に当たる年額四一四万円をもつて、本件事故と相当因果関係のある所得の減少額であると認めるのが相当である。

そこで、右減少額を基礎に、昭和五五年三月二二日から昭和五七年八月二六日までの間の同被控訴人の休業損害を、月別のホフマン方式(二九か月の単利年金現価率二七・三二三六、同月数の単利現価率〇・八九二二)により年五分の割合による中間利息を控除して、昭和五五年三月二二日当時の一時払額として算出すると、次のとおり、九四八万六二一七円となる。

4,140,000×1/12×27.3236=9,4268,642

4,140,000×1/12×6/31×0.8922=59,575

9,426,642+59,575=9,486,217

(四) 後遺症による逸失利益 金二三八万七二五九円

上来認定の被控訴人幹夫の後遺症の内容・程度、業務内容、年齢等の諸事情並びに前掲甲第三三号証の一、二、第三四号証の一ないし三、被控訴人幹夫本人尋問の結果(原審及び当審)に照らすと、被控訴人幹夫は、前記後遺症のため、昭和五七年八月二七日から少くとも三年間を通じて、右後遺症のない場合の八六%に留る稼働しかなしえず、それに相応する割合における所得の減少を余儀なくされたものと認めるのが相当であり、証人西口の証言ではこの認定を覆すに足りない。そして、前記(一)、(二)認定の事実に鑑みると、右稼働低下による逸失利益算定の基礎となる得べかりし所得も、年額六八〇万円をもつて相当と認められる。

そこで、右得べかりし年間所得額と稼働の低下率とを基礎に、同被控訴人の後遺症による逸失利益額を月別のホフマン方式(六五か月の単利年金現価率五七・四一五一、二九か月の単利年金現価率二七・三二三六)により、年五分の割合による中間利息を控除して、昭和五五年三月二二日当時の一時払額として算出する。そうすると、次のとおり、右逸失利益額は二三八万七二五九円となる。

6,800,000×1/12×(1-0.86)×(57.4151-27.3236)=2,387,259

4 本件事故により被控訴人らの被つた精神的苦痛に対する慰藉料額についての当裁判所の認定、判断は、原判決が理由第三項5(一四枚目表一〇行目から同裏二行目まで)に説示するところと同一であるから、これを引用する。

5  以上1ないし4で認定した損害額を合計すると、被控訴人良子については、三六四万六六二四円となり、被控訴人幹夫については、一六二七万八三五六円となる。

三  控訴人らの主張(抗弁)について

当事者間に争いのない後記損害填補の事実に証人西口の証言により真正に成立したものと認められる乙第五号証、証人西口の証言、被控訴人良子、同幹夫(原審及び当審)各本人尋問の結果を総合すれば、控訴人会社の事故係職員と被控訴人良子とは、交渉の結果、控訴人会社は同被控訴人に対し、前記専従者給与額相当の一か月七万円の割合による金員を休業損害に充てるために順次支払う旨合意し、結局、昭和五六年五月六日までの間に合計九二万一五三五円を支払つたことが認められるけれども、右を超えて、被控訴人良子の被つた一切の損害を填補する趣旨で右金員を支払う旨合意したとか、その趣旨で右金員の授受がなされたとの控訴人ら主張については、証人西口証言中にはこれに沿うかに見える部分があるけれども、右部分は、同証人の他の証言部分及び被控訴人良子、同幹夫(当審)各本人尋問の結果に照らして採用できず、他に控訴人らの右主張を認めるに足る証拠はない。

したがつて、控訴人らの主張(抗弁)は採用しない。

四  請求原因四記載の損害の填補の事実は当事者間に争いがない。

五  弁護士費用

被控訴人らが原審及び当審における本訴の提起・追行を弁護士に委任したことは訴訟上明らかであり、本件事案の内容、原審及び当審の審理経過、認容額等に照らすと、本件事故による損害として控訴人らに賠償を求めうる弁護士費用は、被控訴人良子につき一〇万円、被控訴人幹夫につき八〇万円をもつて相当と認められる。

六  したがつて、控訴人ら各自に対する損害賠償残債権額は、被控訴人良子が合計八七万五〇八九円、被控訴人幹夫が合計八七二万一四三六円となる。

七  以上の次第であるから、被控訴人良子の本訴請求は、控訴人ら各自に対し、右損害賠償残金八七万五〇八九円及びうち弁護士費用を除く七七万五〇八九円に対する本件不法行為の日である昭和五五年三月二二日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度では正当として認容し、その余は失当として棄却すべきものである。

また、被控訴人幹夫の本訴請求は、控訴人ら各自に対し、右損害賠償残金八七二万一四三六円及びうち弁護士費用を除く七九二万一四三六円に対する昭和五五年三月二二日から支払済みまで右同様の遅延損害金の支払を求める限度では正当として認容し、その余は失当として棄却すべきものである。

八  よつて原判決は右判断と一部結論を異にし、控訴人らの被控訴人良子に対する控訴及び被控訴人幹夫の附帯控訴はいずれも一部理由があるから、原判決を右判断の趣旨に従つて変更し、控訴人らの被控訴人幹夫に対する控訴及び被控訴人良子の附帯控訴はいずれも理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九三条、仮執行の宣言につき同法一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 上田次郎 道下徹 渡辺修明)

別表ⅰ 売上(取扱)数量,金額

<省略>

別表ⅱ 損益計算

<省略>

別表ⅲ 従業員給与等の修正計算

<省略>

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